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ナウ・ロマンティック【後編】
そして、トークショー・抽選会・真弓さん&今岡さんによる野球塾ときて、ついにチャリティーオークションの時間になる。
「隼太が居酒屋で食った手羽先のガラでも買う」と豪語していた私は、貰ったばかりのお年玉に加えて、塾代になるはずだったバイト代のうち数万円を下ろしてきていた。勿論全額使うとは言っていないが、罪悪感がすごかった。中盤以降、非売品や実使用品に移ると値段がはね上がっていくのは分かりきっていたので、なるべく序盤の流通品の段階で勝負しておくことに。そして、23品目中の4品目め。序盤も序盤で登場したのが、「流通品のスポーツバッグ」……に、『伊藤選手が目の前でサインを書いてくれて、それを握手と共に直接手渡してくれる』というもの。要するにこっち(接触)がメインじゃん。実質『愛する隼太に直接告る権利』じゃん。スタートは3000円。普通に吊り上げていくつもりで手を挙げてとりあえず5000円を提示する。……と、静かになる会場。誰もそのあとに手を挙げる人がいない。非売品でも実使用品でもないためモノ自体の価値も低く、オークションも始まったばかりなのでまだ様子をうかがう人が多いらしい。いや、それにしても一応サイン入りのグッズだぞ?5000円以上出す人がいないって、隼太(さん)がナメられてんのか?それとも野球選手との2秒の接触に5000円出す私が頭おかしいんか?訳が分からないうちに結局5000円の値のまま私が競り落とせてしまった。しかしそんな複雑な気持ちよりも、今はまず目の前の伊藤隼太(さん)が優先だ。ひとまず壇上に上がらなければ、と席から立つ。全身が心臓になったかのような動悸で、目がチカチカする。顔面の表情筋が完全に固まっていて笑顔のひとつも作れない。息ができない。死ぬ。ぶっ倒れそうになりながら震える手で紙幣を渡し、隼太(さん)の目の前に立つ。きりっと微笑みながら、金のインクでサインがされたスポーツバッグを両手で丁寧に手渡してくれる。そしてガッチガチに固まり返った私の手と、しっかりと握手をしてくれた。大きく柔らかく温かいその手の感触が、脊髄を伝って脳に焼き付いてゆくのを感じながら、「大好きです……!」泣きそうになりながらも、ちゃんと目の前の隼太(さん)の目を見て伝えることができた。何度も口に出してきたこの言葉。甲子園のライトスタンドからなら隣のおっさんにドン引きされる大声で叫ぶことができたのに、打席に立つ度何度も声を枯らしてきたのに、今は震える声で噛まずに伝えるだけで精一杯だ。隼太(さん)は黙って笑ってくれた。白い歯を覗かせて、目尻にしわを作って、満面の笑みをくれた。画面越しに何度も見た笑顔を、ついにゼロ距離で独占してしまった。その光景は今も目を閉じればすぐにでも浮かんでくるし、一生忘れることはできないだろう。壇上で踵を返し、自らの座席に戻る。ますます強くなった緊張の残り香と、たった今受け取った幸せが左胸から全身へ鼓動となって伝わってきて、スムーズに座席を下ろして座ることすら難しかった。終始、関節のどこかがストレスに耐えかねて“取れて”もおかしくなかったな……と、意味不明な余韻に浸りながら、バッグを抱き締めた。手持ちは予想以上に残ってしまった。しかしアイドルのチェキ会じゃあるまいし、接触目当てでオークション周回なんてブルジョワジーな芸当はできない。それ以降も正直手を挙げたくなる瞬間はあったものの、安く落とせた分残りは治療費に充ててしっかり治せという思し召しだと思うことにして、おとなしくオークションを観察していた。品物のラインナップもさることながら、子供たちが懸命に振り絞って提示した額を容赦のない大人が即座に上塗りしていくさまがメチャクチャ面白かった。終演後。案の定電車で眠ってしまった弟を降車駅で起こさなければならないため、眠ってしまわないように行きと同じ三田-大阪間の小一時間を立って過ごした。ただ勝手に楽しんでいただけじゃなく、ちゃんと「お姉ちゃん」もしていたんだぞ(好感度アップ)そして帰宅後、物販で買ったシークレットのチャームを開けるとロサリオが当たるというオチまでしっかりついて、長い一日も幕を下ろした。それにしてもゲストの4人が2時間半ほぼ舞台に出ずっぱりで、抽選会・オークションの品物もあの量をひとりひとり丁寧にサイン書かせて壇上で手渡しさせるって正気か?いくらハコ代広告費限界まで削ってたとしても、これで参加者からの徴収が4000円or3000円ってやっぱりおかしい。まして利益は全額三田市の市政に寄付するってどう考えてもボランティア精神が旺盛すぎる。主催のさんだ虎の会実行委員会さんとキャスト陣が本当に本当に頑張ってくださったんだな、というのを改めて実感できる神イベだった。
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