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パチッ②
「パチッ」
チケットに穴が開けられた。負の光走性をもつ今日の僕は、粗末な雑居ビルのさらに地下におりていく。一段、一段、おりていくごとに街の光が届かなくなっていく。所々剥がれたきったねえカーペットで作られた区画。疎らに集まった若者たちに交じれるはずもなく、ドリンクチケットでもらった実質500ml600円の水に遠慮がちに口をつけた。ほの暗いフロアがまた一段光を落とすと、ゲラゲラ笑っていた集団も押し黙ってステージの前に整列する。「パチッ」オーディオの電源が一斉に入る音。2,3音の試奏ののち、何億回も聴いたあのフレーズが響きわたって、光から逃げたいぼくらも、ライブハウスでだけは生きていていいんだって思える。ギラギラ瞬くライトも、ぐわんぐわん攻撃してくる爆音も、心の底から求めてる。触れたくて手を伸ばしたいとすら思える。セトリのトップは、一番俺の好みだった歌だった。以心伝心、している気がした。フロアのうちの何割かが。数にすれば数人でも、絶対的なバンドの味方が、ファンが、一対一を感じていただろう。
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