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パチッ⑤
『大学時代、このバンドを結成した当初から僕らメンバーが一番好きだった曲であり、インディーズ時代本当に多くの方に評価していただいていた楽曲“〇〇”は、メンバー総員との協議の結果、このアルバムには収録せず、今後はライブでも発信しない方向性ですすめていくことになりました。
自分で言うのもなんですが、“〇〇”は僕らの最高傑作なのです。文化祭ステージや学校同士の定期演奏会で有名な曲をコピーして演奏していたふつうの部活バンドだった僕たちが、はじめて自分達で作った曲です。人に聴いてもらうためではなく、ただ自分たちが音楽が大好きで、やりたいから書いた曲です。だから正直、ビートも歌詞もめちゃくちゃで、あまりに稚拙すぎて。これから、オーディエンスに届けるための楽曲を書くことを求められていく立場になるうえで、決別しないといけない曲であり、それでいて一番大切にしないといけない曲です。僕たちは音楽が好きです。この気持ちを忘れないために、初心であるこの曲は僕たちの宝物としてしまっておくことに決めました。僕たちのロックンロールがビジネスに搾取されそうになってしまったら、僕らはこっそり3人だけでこの曲をやってます。舵であり、エンジンであり、コンパスであるこの曲からこのバンドが始まったことを、僕たちとほんの一部の方たちだけがずっと忘れてないってことに、いますごくワクワクしています』一番評価していた……いや、そんな高尚なもんじゃなくて、大好きで、大好きで、本当に好きだった。うまくはないのにあの曲だけどうしても俺の心をぐちゃぐちゃに揺さぶったのは、君たちも同じ気持ちだったからなんだな。自分含め、いまやこの世で数人しか一生聴けなくなってしまった曲をもう一度聴きたくて、ROMを再生機に入れた。…「パチッ」音楽が流れ始めた。
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