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sniffing curse③
「そっか」
そういって、今まで見たことないくらい悲しそうに笑った彼女の周りには、やっぱりいつもと同じ香りがしていた。
そばにいるときだけ、ふたりの香りがコンバイニングされてひとつになる。
迷ったんだ。
今日だけは、違う香水をつけてくるか。
あの香りはいい思い出だけで、プラスの記憶だけで取っておきたかった。
でも、彼女との記憶は最後まで同じ香りで残そうと決めた。きっと今から言う言葉は、彼女を深く傷つける。深く悲しませる。そのとき漂っていたこの香りのこと、彼女はきっと嫌いになる。
大嫌いになってほしい。
俺のことも、この香りのことも。
それが最後にできる償いだと思った。
最後にとれる責任だと。
もうすぐ、アールグレイがなくなる。
次のボトルは、買わないつもりだ。
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