-
-
梅雨の苗①
年を取った。
独り暮らしの僕の部屋のポストに、1通の封筒が届いていた。差出人は地元で就職した旧友の名。中にはカードが1枚だけ差し込まれていた。
同窓会の招待状。それも、高校の同級生が集まる会合だった。
いやはや、はしゃぐのは構わないが高校なんてついこの間卒業したばかりじゃないか。わざわざ見知った面子で集まったところで......と、半ば呆れていたが、待てよ。そういえば年明けにはおれはもう28になる。古い友人たちからはちらほらと子供の話を聞くし、彼女とも結婚を意識し始めている。
つまりは、次の春でもう卒業から10年になるのだ。
10年。10年か......ずいぶんと早かったな、ここまで。次の10年はきっともっと早い。先人達がみな口を揃えてそう言っている。
久しく地元にも帰っていないし、両親にもそろそろ顔を見せたい。行くことにするかな......
でも、高3の面子ねぇ。実家に卒業アルバムはあるけども、はっきり覚えてるのは小学校からの腐れ縁である男友達、やたらマメに連絡をくれる当時の委員長の女と、その友達数人。高校で知り合った悪友とはいまも交流がある。
あ、それと。
高校3年生のクラスには、留年生がひとりいた。
3年生に上がるクラス、もうほとんど見覚えのあるやつらばっかでくそつまらねえクラス替え。
その時一番前の席に、髪の短い女子生徒がひょっこり交じっていた。いかにも病弱そうな白くて細っちい体、ちっこい顔。背はちょっと高かったけれども、見るからに運動は嫌いそうな見た目をしていた。
名前は......なんだか忍びないので、仮称で早苗とでもしておく。
おれの家からチャリで20分弱、いわゆる「地元の進学校」であったから、留年した子がいるとなるととたいそう目立った。まして、それが真面目そうな女の子だとあって、余計に他クラスでも噂になっていたらしく、うちの教室にきたやつは必ず早苗の席に目をやった。
おれはたまたま早苗の後ろの席で、そいつらの視界に入るのがなんとなくこっぱずかしくってよく寝たふりをしていた。
色素の薄い可憐な美少女と言える見た目。ひとつ年上と分かっていることもあって、一発目に話しかけるのは憚られたが、何かのきっかけで話してみると意外に声は通るしよく笑う、普通の女の子だとわかった。本当に普通だったんだ、本当に。
その上その見た目でイギリスのロックバンドが好きだとか言うから趣味が合って、6月くらいにはたまに言葉を交わせるようになってきた。それでもまだまだ親しいとまではなれないでいたし、なにより早苗の方が今以上に親しくなる気がないような様子だったので、おれはなんだか距離を感じるようになっていた。
-