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梅雨の苗③
おれは迷って、迷った末に、カードと封筒とをくずかごに捨てた。
友人達はぶつくさ文句を言うだろうが、あとから奢って埋め合わせしてやれば問題あるまい。
おれは、早苗が来ないことを分かっていた。ひとつ上だから、ではない。『9つ下』だからだ。
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夏休み明け。
おれの前の席には、透くように白い、百合の花が生けられていた。
驚かなかった。なんとなく予感していたような気がした。いや、早苗自身が教えてくれていた気がした。
彼女の死後になってようやく、風の噂で「高2のときにバイ春で堕胎し休学していたらしい」と聞いた。
「日下くんじゃなきゃダメだった」
あれは彼女の本心だったのだろうか?
あの日、お互い示し合わせたように「好き」とだけは絶対に言わなかった。
言ってはいけないと、本能で悟っていた。
あの日の彼女の目。その目に宿った感情の是非を、まだ理解することができていない。オトナになっても、大人になっても、未だに。ずっと。
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