「せやんな」
突然、雄大が低い声で呟いた。
「ん......そう、だね」
「俺さ、凛のことまだ好きやねん。
凛とあのときできんかったことしようって、成長してますよアピールしようって、必死やった。
野球やめてからもう凛に誇れるモンなんにもなくって、会いに行く勇気もなくて。キツすぎて。
俺な、留学行くねん。
親が野球やめるんやったら勉強せえってうるさくて。大学も就職も、向こうになると思う。今んとこ。
だから今日たまたま会えたん、奇跡やと思った。マジで。間接キスも手ぇつなぐんも緊張で死にかけやったし、俺ほんまは全然変われてない。カッコだけつけても、結局中3ときのまんまやからさ」
「......や、雄大、冗談きつ......」
「冗談に見えてる?俺。
ほんなら自業自得やな、マジやで、残念ながら」
次の瞬間、雄大は着崩れ切った私の浴衣の袖を引きよせ、きつく抱き締めていた。野球部のときと同じシーブリーズの香りに薄くウイスキーの刺激臭が混じって、大人でも子供でもない微妙な香りに涙が出そうになる。
「......ごめん、私、雄大のこともう全然好きじゃない。今日は楽しかった、......ごめんね」
「知っとるわ、凛のことなら何でもわかっとる。今日俺のこと最初に見たときから脈ないのわかっとった、だから必死やってん......あの頃を取り戻そうって......できるわけないのにな、付き合わせてごめんやで、ありがとうな」
「うん......でもね?あの頃取り戻したかったのは私も同じ。だからやりたいことがあるの。いいかな?」
抱き合った背中をトントン叩くと、雄大は不思議そうな顔で離れる。
私は雄大の頬に触れるだけのキスをし、精一杯大人ぶって笑った。
「よい夏を!」
私は、倒れないよう確実に踵を返し、ふらつかないように目一杯公園の砂を踏み締めて走り去った。
何度も何度も転びそうになりながら、涙でぼやける視界を向かい風でぬぐうように走った。
このまま消えてしまいたかった。